Personal History:自分史No.2

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第Ⅰ部第I
現代「奇想の系譜」の位相
=村上隆・五百羅漢図=

2011年311日、東日本大震災。それからちょうど一年後に、中東カタールの首都ドーハに巨大な「五百羅漢図」が登場した。「主体性を持って、社会を変えていかなければいけない」との決意のもと、3.11のメモリアル作品を村上隆が世界に発表し、「芸術と社会の関わり」に一石を投じたとされている。
この村上隆の≪五百羅漢図≫(以下、村上羅漢図とする)は、国際的なアートシーンで活躍する中で培った漫画やアニメのサブカルチャーと融合した現代美術と共に、日本の伝統的で村上の芸術面のルーツでもある「日本画」的な造形を駆使し、最新の「巨大壁画」として制作されたものである。一方、近年の若冲をはじめとする「日本画」への社会的な関心の高まりには、辻惟雄の江戸期の庶民文化の隆盛を担った絵師を再評価した「奇想の系譜」が大きく影響している。
漫画やアニメなどの氾濫する現代において、「奇想の系譜」が「現代の最も尖端的な造形」につながっているならば、江戸期という時代特有ものではなく、現代においても通底する「奇想の系譜」という存在があるのではないのか、そのような問題意識が起こる。
 そこで、本論文では、村上羅漢図が、日本の芸術文化の視座の中で、江戸時代を乗り越えて「現代における奇想の系譜」を体現しているという仮説に基づき、主題・造形・手法などフレーム構造や時間と空間軸を踏まえた芸術作品の位置と共に、「奇想の系譜」とスーパーフラットおよび現代アート理論に基づくレイヤーと次元の様相、それらの位相を多面的に論じ、村上芸術の到達点と地域と時代を超える現代アートの世界として切り拓いた地平を考察するものである。

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第Ⅰ部第Ⅱ章
壁画芸術の「公共性の構造転換」
―変曲点はピカソではなくミロ―

 「ゲルニカ」。この言葉からイメージされるピカソの作品は、反戦平和のシンボリックで、インパクトの強い巨大壁画である。大画面の絵画が、多数の観客の目の前に現れる迫力は一般の芸術体験とは異なった感動を生み出すのが「巨大壁画の魅力」である。壁画は、古くはラスコー洞窟画など墳墓や教会を中心に発展してきた最古からの絵画表現の形式である。壁画芸術は、ある場所に半永久的に固定し、数百人が一度に見たい時に何時でも見ることが可能な絵画として、美術の作り手と受け手の意識の共有ができるものである。芸術家にとって壁画制作は、ピカソのゲルニカのように個人の芸術活動の中で重要な意義をもっており、先行研究を見ても壁画芸術は多数取り上げられているが、個別の作品研究がほとんどである。
 近現代の壁画は、ナショナリズムの高揚の中フランスで歴史的に復活し、新たに公共の場に登場すると共に、メキシコ壁画運動や1937年のパリ万博を契機に広がってきた。近現代の壁画芸術は、開かれた公共空間への本格的な進出に伴い、民衆に対して宗教や民族の歴史など「社会的な啓蒙」、国や社会、技術の「プレゼンスの発揮」、教育や文化として「芸術の浸透」の三つの機能と役割を拡大してきた。しかし、このように歴史的に重要な位置を占めてきた壁画芸術であるが、第二次世界大戦以後については、依然として俯瞰的な整理がされていない。戦後の巨大壁画は、誰が、どのように取り組み、どのように変化したのか。
 本論では、戦後の代表的な壁画制作に関わったピカソ、シャガール、ミロ、シケイロスなどの取り組みの中で、壁画が芸術の公共性に向かう上で、伝統的な主題、古典的な造形、制約された制作技法の三つの面で課題解決を進め、スペイン・カタルーニャを基盤にグローバルな活動を行ったジヨアン・ミロ(Joan Miró 1893-1983)の壁画芸術が、戦後の壁画の位置と社会的受容のもとで、どのような地平が切り拓かれたのか考察するものである。

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第Ⅱ部第 I
<Anyアート>の受容探索
―地域アートはどこに向かうのかー

概要
古民家、お寺、商店、廃止となった公共施設など多彩な地域空間を活用し、現代アートを主体にした「地域アートプロジェクト〈以下、地域アート〉」が、全国に広がっている。しかし地域アートとは、そもそも何で、なぜ求められ、それはどこをめざしているのか。
私が関わっている地域の「KASHIWARA芸術祭2019」では、過去から脱皮し地域的な特徴と方向性をめざす<Anyアート>を新たにサブテーマとして打ち出したものの、それは何なのかについて、まだ明快な答えや共通認識は得られていない。
本論は、<Anyアート>をキーワードに、「Anyアート99」のプロジェクトや地域アートツアー、アートセッションなど身近な地域におけるアートの資源探索とイメージ共有の活動を通じて、地域アートの方向性をとりまとめたものである。

意図
地域では、近年アート活動の取り組みが進み、関心が広がっているものの、現実は必ずしも上手く展開しているとは限らない。特に地域アートでは「実際の運営の仕組み=人づくり」が課題で、人材が希薄であり、地域とアートのつながりや広がりを支える内実はまだまだ寂しい状況である。
そんな地域アートの課題解決の前提としては、まず「アートや現代アートとは」、「地域アートとは何をめざすのか」や、またオリジナルに設定した<Anyアート>について、企画推進の母体や地域の人々の中で認識やイメージの共有をめざすことが必要である。重要なことは、アートは、面白く、楽しいものだという人材を、地域で上手く育て、その人的パワーを具体的に結集することである。
そのためには、地域特性を活かし、公共空間をアートにより活性化する「アートなまちづくり」に向けた戦略のもと、地域の人がアート資源の探索に自ら主体的に関わり、考え、理解する具体的なコミュニケーショナルなアート活動を核に、アートの地域的な受容ネットワークの構築をめざしている。

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